藤忌
マンションの向かいに建つ古い個人医院の庭に今年も藤の花が垂れる季節になった。二度だけ訪れたことのあるその内科の問診室で、発音の不明瞭なおじいちゃん先生の白衣の向こう、格子の磨り硝子にあかるい昼間の植物の影が透けていたとおもう。はい、はいとぼんやり何となく頷きながらスリッパをぺたぺたさせて、夜も眠れないほど続いた咳のぴたりと止まる濃い茶色い液体の咳止め薬をいつかもらったんだった。
外は暖かすぎるくらいの陽気、夕寝の覚めぎわに今日、祖母がわたしの頭のそばへ立ってくれた。こんなにありありと感じられるのは夢でも初めてだった。ちょっと横を向いて寝ている枕辺の斜め上から初めわたしの頭にちょっと触れて、だから見上げようとしたのに首が重たくて視線があとちょっとのところでそれより上へ向けられなかった、必死に何度か試したのだけど、そのまま祖母はわたしの名前を呼びながら、プラスチックのケース入りの冷えたソフトクリームを渡そうとしてくれていたんだった。わたしはそれを見られないまま両手でたしかに受け取りながら冷たさも水滴も感じて、少し皺ばんでいるけどふっくらとした小さい、あの白い手も一緒に包んで、いまもらっても溶けちゃうよ、とか、来てくれたの、とか一緒くたに思いながら泣いてた。
その後はことりと眠ってしまい夢を見て、水に半分沈んだテーマパークのような町をまわりの人は水着だったけど、父のような人と兄のような人と、構わずに洋服のまま泳いでいって見て回ったりした、ひどく気持ち良くて楽しくてきゃらきゃらと笑った。
いつかの時に、これだけは、と思って祖母の一ばん身近だった人に、祖母の一ばん好きな花を尋ねたら藤だと言った。家族で満開の藤棚を見に行った記憶もよくよく数えればもう十年以上も前だ。五月の末日は祖母の二周忌になります。
外は暖かすぎるくらいの陽気、夕寝の覚めぎわに今日、祖母がわたしの頭のそばへ立ってくれた。こんなにありありと感じられるのは夢でも初めてだった。ちょっと横を向いて寝ている枕辺の斜め上から初めわたしの頭にちょっと触れて、だから見上げようとしたのに首が重たくて視線があとちょっとのところでそれより上へ向けられなかった、必死に何度か試したのだけど、そのまま祖母はわたしの名前を呼びながら、プラスチックのケース入りの冷えたソフトクリームを渡そうとしてくれていたんだった。わたしはそれを見られないまま両手でたしかに受け取りながら冷たさも水滴も感じて、少し皺ばんでいるけどふっくらとした小さい、あの白い手も一緒に包んで、いまもらっても溶けちゃうよ、とか、来てくれたの、とか一緒くたに思いながら泣いてた。
その後はことりと眠ってしまい夢を見て、水に半分沈んだテーマパークのような町をまわりの人は水着だったけど、父のような人と兄のような人と、構わずに洋服のまま泳いでいって見て回ったりした、ひどく気持ち良くて楽しくてきゃらきゃらと笑った。
いつかの時に、これだけは、と思って祖母の一ばん身近だった人に、祖母の一ばん好きな花を尋ねたら藤だと言った。家族で満開の藤棚を見に行った記憶もよくよく数えればもう十年以上も前だ。五月の末日は祖母の二周忌になります。
2012.05.03 | - |