スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

2016.01.18 | - |
.
 気のついた時には簡単な料理をし、せめてちゃんとした器にそれを盛ろうとつとめているこの頃です、祖母から受け継いだ草花の模様の豊富な皿、二色の釉薬で彩られた外国製の丸皿、レース模様の刻まれた硝子皿、アカシアの木のプレート、粉引きのざらりとした質感の白い器。見たものを文に留めること、書いた文を見る風景や物へかえすこと。衣食をおろそかにしないこと。


 雨上がりの肌寒さに誘い出されて電車に乗っていた夕刻、駅前のビルの中にある書店のいつもなら静かな奥の棚へ進むとみょうにくぐもったざわめきが止まないので何だろうと思っていると、壁ぎわの本棚の合間にある窓が開け放たれており路面の雑踏や電車の音がここまで立ちのぼってきているんだった、冷たく湿った風と混じりあって、時どき鮮明に誰かの話し声などが間近にあるように聞こえもして今目の前にある本棚や静かにそれを眺める客の姿がまるでスクリーン越しの景色のような、そうではなくてまるでこれだけがこの現実なのでしかないような、不思議にひどく心地良い数瞬間があった。店内には少しのあいだ、ムーン・リバーが薄く流れていた。
 この時間をこのときわたしは一人で甘受してしまったのだけれど、こうした些細な(ひどく瑣末な)忘れがたい時間の中へ何度でも還っていくべきだと思った、きっと次は誰かを連れて。道連れにして。そうでなければ何もかもをふいにしてくれるかの、どちらかしか今は思いつけずにいます。

 「ええ、私も知りたいと思っています。」私もまた、それを知ろうと試みてみた。一瞬のあいだ、私は答えまでたどりつけたと思ったーーだが、私の達したところとは、この明るくて心地よい場所、この台所以外の何ものでもなかった。かつての私はこの台所を犠牲にして沈黙を破ってしまったのだが、いま、また私はこの台所を眺めていたのである。
ー『私についてこなかった男』


 今はできるならすべて忘れて、だけど叶うなら忘れることなく、読んでいくことができたら。まるで見知らぬものとして、他人どうしの最初の触れ合いのように、初めての驚きをもって、感動をもって。

-

 縦線と横線に沿った横断しか出来ないから方眼紙が一ばん好きだ、というような事をここに書いたことはあったのだったか、真っ白な頁の薄いきれいなノートがポストに届いており、今はもちろんまだ最初のペン先の一点を置くこともできそうにないけれどそれはわたしの本棚の内でいちばん明るい瞼のようで、同封されていた版画作品のポストカードも。思わぬ角度であてられた鏡に見慣れない自分の姿を見たような、ひやっとする、とても有難いうれしいこと。ありがとうございます。
2012.10.08 | - |
来た人
 けさは幸福すぎて最低な夢をみた。何度も繰り返したくなるような、忘れたくないような。すっかり目が覚めてからもしつこく反すうをする、もうこのままでずっといい、とまるで思えてしまうような。
2012.09.29 | - |
あわだつ九月
 列車の窓から見えた九月夕刻の積乱雲が、ありありと立体的に、たしかに山のようなんだった。関西へ訪れると町並みの向こうへ聳える山々に見られている感覚のひどく安心できたこと、私の地元ではそれはやや遠く青みがかった稜線だったけれど、それがビル郡の果てへ白いすがたであらわれて、見えるはずもない山を探して消えた視線のこれまでの分をまとめて見つめ返しに来たようだった。いつまでも消えそうにない輪郭をもった雲はだけど次第に散ってしまった、のではなくてよく見渡せば、それはこの一帯を覆い尽して曇り空になり、だんだんと夜へ移っていったんでした。

 どうしてなのだかこちらへ来てから日傘も差さず踵の高い靴もあまり履かなくなり駅から駅へ、街角から街角へ、歩き回ってばかりいます。すこんと抜ける線路のために退いて暗い裏面を電車側へ晒している古い建物の連なりも、駅のホームや街の隅に消えることない吐瀉物のあともやがて見慣れて。ようよう忍び込んだ都会の底で、望んだとおりの点になってる。

 水曜夜、くたくたのまま映画館の赤い椅子にうずもれてスクリーンの前に垂れかかる薄い布が空調の風にうっすら揺れる様子を見ていた。静かに流れる音楽もまた「ライク・サムワン・イン・ラブ」、疲労と映画が薄闇に溶けひろがって至福の二時間。ここ四ヶ月ほどのあいだ観た映画で印象に残っている数々、『殯の森』での森の中のダンスシーン、『七夜待』の外国語同士のやり取り・「ラ・プリュイ」「ラブリー?」。『サウダーヂ』の土と幻影。絶叫する満島ひかりの長台詞にクラクラする『愛のむきだし』、それから『脳内ニューヨーク』の途方のなさ、だれにも否定することできない・・・。

 疲れた夏がいっせいに引き上げて街の風景の目が覚める、遠くから近くまで、毎年ながら粒めく空気に透いていくものと引き換えに身に着ける衣服を重たくする。あらゆるものが隣り合って迂闊に放心するあてのない、ひしめく往来を布と布とあいだから、どうぶつの眼で行きたいものです。
2012.09.27 | - |
眠りのきわの泡の箱
 今月22,23日に開催されるTHE TOKYO ART BOOK FAIR 2012(http://zinesmate.org/)へ出展される、友人のZINEへ詩作品を寄稿しました。絵と詩によるZINEとの事で、詩は現在『現代詩手帖』新人作品で活躍している森本孝徳氏、思潮社から詩集の発売も控えている疋田龍乃介氏が書かれており、前回は森本氏若村氏のおふたりで成されていた一冊に絵のほうも二人加わり、益々素晴らしい一冊になるはずと思っています、ぜひ。

THE TOKYO ART BOOK FAIR 2012
9/22日(土) 11:00-19:00
9/23日(日) 11:00-18:00
会場:京都造形芸術大学・東北芸術工科大学 外苑キャンパス
東京都港区北青山1-7-15
入場料:無料

『泡箱』(ブース名:苳ノ巻)
http://zinesmate.org/archives/publisher/fuki-no-maki
(絵)若村大樹 高山ゆうすけ 石原英介
(詩)森本孝徳 疋田龍乃介 水橋佑美
2012.09.11 | - |
生誕100年 船田玉樹展
funada1.jpg
<梅林> <枝垂れ桜>


 練馬区立美術館で開催中の船田玉樹展が、ひどくすばらしかった。ポスターなどに使われている華々しい<花の夕>は26歳のときの作品。年代を追うごとにあやしく、なのにどこか楽天的になっていく、必死の作品たちだった。わびしい可笑しみのある<水墨河童>シリーズのあたりから、後半は半べそかきながら見てました。


funada2.jpg
<ねむれない夜は>


むかしむかしのそのむかし
そのまた遠きものがたり
遠きはなしのはしくれに
わしの河童を
置いてくれ
<わしの河童を>

夢遊外出
千里萬里
酔歩孤影
月下河童
河童悪童
河童仙童
恋々河童
哀々河童
<月下河童>


funada4.jpg
<バンザイ>
2012.07.29 | - |
<< | 2/38 | >>





        y / /